昔々あるところにとても強い王様がおりました。
戦は負け知らず、
国はどんどん大きくなっていきました。

王様は短気で家来にも厳しく
そのため、
年を経るごとに
どんどん厳めしい顔になっていきました。

ひとり身だった王様は隣国の姫君を見初め
求婚しましたが
心優しく美しい姫は王様の顔を恐ろしく思い
それを断りました。

諦めきれない王様は
国一番の彫刻師にこう頼みました。
「いつも優しい顔に見えるように
面をつけることにした。
つけていることがわからないくらい
精巧な面を作って欲しい。」

「わかりました。
しかし面をつけているとわからないようにするには
とても薄く作る必要があります。
もし王様が短気を起こされて怒った顔をされると
面が破れてしまうおそれがあります。
くれぐれもお気をつけいただきますよう・・」

彫刻師が作った優しい顔の面をつけて
王様は姫君に求婚し、
姫君は承諾しました。
ふたりは夫婦になりました。

妻になった姫は夫が面をつけているとは
知る由もありません。
王様は短気を起こさぬよう、
家来にも穏やかに接し
気を付けて暮らすようになりました。

しかしだんだん自分が妻を騙していることに
罪悪感を抱くようになりました。

ある日王様は意を決して面をはずすことに
しました。

そっと面をはずして鏡を見ると
そこにはとても穏やかな顔をした
自分が映っていたのです。

つとめて優しく穏やかな心持ちで暮らすようにしているうちに
王様の顔付きが変わっていたのでした。

王様と妻はそれからも仲睦まじく暮らし
家来たちも王様を慕い
国はずっと栄えたということです。