レモンタルトの夢

イラスト、写真、お話しなどを載せています。時々根尾くん♪

「水車のある教会」Oヘンリー

若いエイブラムは小さな田舎の村で
粉挽きの仕事をしていました。
仕事場の水車小屋の向かい側に自宅があり、
家族は妻と一人娘のアグライア。


幼いアグライアは自分のことをダムズと言っていました


毎日夕暮れ時になると、
アグライアは水車小屋にやって来て
父親の粉だらけになった白い手を取り、
「おとうちゃま、ダムズと一緒にお家に帰りましょう」と言い、
エイブラムはアグライアを肩車して
粉挽き歌を歌いながら
自宅に帰りました。


アグライアは4つの年に
ある日突然行方不明になり、
エイブラムと妻は村を離れます。
その二年後、妻は失意のまま世を去ります。


エイブラムは新しい土地で娘の名をつけた
「アグライア印の小麦粉」を作り、販売。
成功をおさめます。
エイブラムは貧しい人々に小麦粉を無料で配るなど
慈善事業にも余念がありませんでした。


20年の年月が流れた頃、
エイブラムは自分の仕事場だった村の水車小屋を
教会に改装し、自ら神父となります。
教会には水車をそのまま残していました。


☆☆☆


村にローズと言う若い娘が
アトランタから保養のためにやってきます。
ローズは顔色が悪く健康を害していたようですが
教会のエイブラムと知り合い、親しく過ごすうち
元気になっていきました。


ある時、ローズは村の人間から
エイブラムの悲しい過去のことを聞きます。


ローズはエイブラムの手を取って
「神父さまがいつか娘さんと再会できるように祈っています。」と。
そして冗談めかして
「もし私が神父さまの娘だったら・・」と言うのでした。
しかしローズの幼い頃の記憶に水車小屋も
エイブラムの姿もありませんでした。


それからしばらくした頃、
エイブラムは教会のベンチに座っているローズを見かけます。
ローズは意気消沈している様子でした。
エイブラムはローズにわけを尋ねます。


ローズはアトランタにいる恋人から
手紙でプロポーズされたとエイブラムに打ち明けます。


「でも私は彼の申し出を受けることができません。
私の両親は私の実の親ではないのです。
私はどこの馬の骨ともわからない人間なのです。」


ローズの育ての両親は仲が悪く、
ローズは家を出てアトランタで百貨店に勤め
一人で暮らしていたのでした。


それを聞いたエイブラムは
「彼がちゃんとした男なら
そんなことを気にするわけがない。
それは私が保証する。」と
ローズを諭しますが
ローズは首を横に振るばかりでした。


その時、教会の奥から
パイプオルガンの音が聞こえてきました。
その音色はエイブラムの脳裏に懐かしい光景を
蘇らせます。
水車小屋の仕事場、幼い娘の小さな手・・
エイブラムは我知らず粉挽き歌を口ずさんでいました。


その歌を聴いたローズの口から
こんな言葉がこぼれ落ちたのでした。


「おとうちゃま、ダムズと一緒にお家に帰りましょう!」


★★★


夕暮れの道を父と娘は
幸福に包まれながら歩いて行きます。
娘は父親に向かって
おずおずとこう尋ねます。


「お父様はお金をいくらか持ってらっしゃいますか?
アトランタに電報を打ちたいのですが
いくらかかるのか見当がつかなくて・・」


「もちろん持っているよ。
彼に電報を打つんだね。
こちらに来てもらってはどうだろうか。」


娘は父親にこう答えるのでした。


「彼には結婚を少し待ってもらうつもりです。
ようやく会えたお父様としばらくは二人だけで
過ごしたいから・・」



終わり