春のアラカルト ①
「春のアラカルト」 ①
3月のある日、
ニューヨークに住むサラは
メニューカードの上に涙をこぼしていました。
*
サラはフリーのタイピストとして生計を立てていました。
一番のお得意先は下宿の隣にあるレストラン。
ある日、その店で食事をしたサラは
英語ともドイツ語ともわからない
乱雑な文字で書かれたメニューカードを持ち帰り
自宅のタイプライターで清書すると
翌日店の主に見せました。
前菜から「コートや傘のお忘れ物には責任を負いません」まで
綺麗にタイプされた紙を見て
店主はすぐにサラと契約を結んでくれました。
清書するのは毎日変わるディナーのメニューカードを21枚、
朝食とランチは変更があった時だけ。
報酬として一日三回の食事が
サラの部屋まで店の者によって
運ばれました。
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サラは前の年の夏、二週間ほど田舎に遊びに行き
そこでウォルター・フランクリンという若い農夫と
恋を落ちました。
ラズベリーの生い茂る小道の木陰で
サラはウォルターにプロポーズされ
サラはそれを受けました。
ふたりは並んで座って、タンポポで花冠を作りました。
タンポポの冠はサラのよく似合い、
それをウォルターに褒められたサラは
冠を頭に載せたまま、麦藁帽子を振りまわして
家に帰ったのです。
「春になったら結婚しよう」ふたりはそう約束し
サラはニューヨークに戻りました。
それから季節はめぐり
3月となりました。
つづく
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2月1日の誕生花はマーガレットです。
花言葉は「真実の愛」「信頼」