レモンタルトの夢

イラスト、写真、お話しなどを載せています。時々根尾くん♪

「たこ焼き多情」田辺聖子

中矢は30代の独身男。
母一人子一人の二人暮らしで
親と同居の条件が枷になり
見合いしてもなかなか話がまとまりませんでした。


だいたい、中矢も母親が持ってくる縁談の相手が
気に入りません。
「私は行き届きませんので、お姑さんになる方に
色々教えていただきたい。」などど
しおらしいことを言う女は信用できないと
思っていたのです。
ある美人の見合い相手とはたこ焼きの好みを巡って言い争いにも・・。
(しおらしい女も美人も悪女や)
中矢はそう思うのでした。


中矢の大好物はたこ焼き。
ある時、屋台のたこ焼き屋で
中矢は20代後半と思えるテル子という女と知り合います。
下膨れの愛嬌のある、ハキハキした開けっ広げな娘で
初対面でたこ焼き談議に花が咲きます。


それから二人は週に何度も会い、一緒にたこ焼きを食べ
ホテルに行く間柄に。


中矢はテル子との結婚を意識し始めます。
このテル子なら、親との同居を了承してくれるかもしれない・・。


中矢がテル子に何かプレゼントしたいと言うと
テル子は二万円のアクセサリーをねだります。


中矢は「よっしゃ」と快く答えると
テル子にプロポーズします。


「結婚したらお袋と同居してくれるか?」


するとテル子は
「中矢さん、独身やったの?
あたし、主人いるよ。今北海道に単身赴任中。」と。
聞けばテル子の年は40過ぎだと言います。
中矢は勝手に20代と思い込んでいたのです。


「どないなっとんねん。」


「舅姑の世話があるから、あたしも息抜きが必要なんよ。
ハイ、二万円ちょうだい。」


中矢は財布から二万円を取り出しながら
(本当の悪女はテル子のような女のことを言うのや・・)
と憮然とするのでした。