レモンタルトの夢

イラスト、写真、お話しなどを載せています。時々根尾くん♪

月夜と眼鏡 小川未明

町も野も緑に覆われる季節のこと、
ある穏やかな月の夜
町はずれの家でおばあさんがひとり針仕事をしていました。


年のせいでなかなか針に糸が通らず難儀していた時


折よく眼鏡売りの男が訪ねてきました。
おばあさんは男から眼鏡を買いました。


眼鏡をかけると
まるで若い頃のように何でもハッキリ見えます。


しばらくしておばあさんは眼鏡をはずし
そろそろ寝ようかと思いました。


その時今度は12・3歳かと思われる
髪の長い美しい娘がやってきました。


「仕事の帰りに転んで手にけがをしてしまいました。
おばあさんが優しい人だと知っていたので・・」


白ばらの香水工場で働いているという娘からは
いい香りがしていました。


おばあさんは娘のけがの具合をよく見てあげようと
眼鏡をかけました。


すると人間の娘かと思っていたのが
それは一匹の蝶だったのです。


「いい子だから、こちらにおいで」


おばあさんは先に立って
蝶を連れて裏の花園に出ました。


花園は月の光を浴びて
あたりは静寂が広がっていました。
白ばらも咲きほこっています。


おばあさんが振り向くと
蝶の姿は消えていました。


「みんなお休み・・・」
おばあさんはそう言って家に戻りました。


とてもいい月の夜でした。



18世紀に描かれた絵画。

作者忘れました。