レモンタルトの夢

イラスト、写真、お話しなどを載せています。時々根尾くん♪

「サキの忘れ物」津村記久子

津村記久子さんの新刊「サキの忘れ物」(短編集)から


「サキの忘れ物」ねたばれ


病院併設の喫茶店で働く千春。
千春は通っていた高校を中退して
その喫茶店でアルバイトしていました。
学校に通うことに意味を見出せず、友達もおらず、
両親は娘に無関心。
千春は何も好きなものがなく、
それを探す術もわかりませんでした。


千春はこんな風に思います。
「わたしはこれまで、
誰かにまともに取り合ってもらったことなんて
あっただろうか。」


ある日、いつもお店に一人でやってきて
本を読んでいる常連のお客さんが
文庫本を置き忘れていきます。


それはサキの短編集で、
女性客は友人が入院していて
見舞の際の時間つぶしに本を読んでいるということでした。


千春はサキの短編集に興味を抱き、
本屋で同じものを求めて読み始めます。
千春はそれまで教科書以外の本を読んだことがありませんでしたが、
サキの短編は面白く感じたのでした。


そのことをきっかけに、
千春と女性客は少しづつ言葉を交わすように・・。


しかし、ある日を境に女性客は
お店に来なくなります。
見舞っていた友人が亡くなったという話でした。
千春は店長から、女性から託ったという封筒を渡されます。
中には千春へお勧めの本のリストが入っていました。


その後、
高校の卒業認定の試験を受け、アルバイトを経て
千春は書店の正社員になっていました。
昔働いていた病院の近くの書店で働く千春の前に
本のリストをくれたあの女性が偶然現れます。


「本屋さんになったんですね。
立派になられて。」


「いえ。」


喫茶店でアルバイトしていた頃から
10年の月日が経っており、
千春は文芸書の知識を買われて
副店長になっていました。


「私は今は自分のことで病院に行ってるんです。」


「そうなんですか。
私はここで働いているので通ってくださいね。」


「ええ。」


元川さんという女性は静かにうなずきました。