風雪の檻 藤沢周平
「幻の女」あらすじ
もとは腕のいい真面目な職人だった巳之吉という男は
博打で身を持ち崩したうえ
いざこざを起こして人を殺めた罪で
牢で流人船を待つ身でした。
ある日登は腹下しを起こした巳之吉を診ます。
巳之吉は無口な男でしたが
登にふと幼馴染だった少女のことを漏らします。
巳之吉の住む裏店に父親と引っ越してきた、
おこまという名の大人しい娘でした。
巳之吉が修行に出るまでの短い間でしたが、
おこまのことは巳之吉の心に深く刻まれます。
年頃になった巳之吉は夫婦になるなら
おこましかいないと考えるようになりましたが、
何年か後、裏店に戻ってみると
おこまは引っ越した後でした。
☆
登は巳之吉におこまを探してやろうと
約束します。
もう結婚して子供の二人や三人いるかもしれない・・
それでもおこまが幸せに暮らしていることを知れば
巳之吉の気持ちも慰められるだろう・・。
登はおこまを探しはじめますが、
おこまは勤めと住まいを短期間で転々としており、
「伊勢甚」という小料理屋を最後に
行方がぷっつり途絶えます。
ところが登は相談した岡っ引きから
とんでもないことを聞きます。
おこまは登が勤める小伝馬町の牢に入っていると
言うのです。
「伊勢甚」の女将らと組んで
お客の懐から財布を盗んでいたと。
余罪はそれだけではないらしく、
おこまは一軒家を持って贅沢に暮らし、
働かない亭主を養っていたという話でした。
☆
登は巳之吉に
おこまは「伊勢甚」という店を最後に
足取りがつかめないと嘘をつきます。
巳之吉は登に尋ねました。
「伊勢甚ではおこまのことを何と言ってました?」
「よく働く女子だったと褒めていた・・」
「そうでしょうとも、あれはそういう女子なんだ・・」
10日後、登は巳之吉の乗った流人船を見送りました。
☆
登は女牢の牢名主おたつに頼んで
おこまを呼び出します。
「巳之吉という男を知っているか」
おこまは小さくうなずきました。
「巳之吉は人を殺めて遠島送りになった。」
おこまの顔が赤くなるのが
薄闇の中ではっきりわかりました。
「あの人は私がここにいることを
知っていたのでしょうか?」
「いや、知らずに行ったよ」
膝の上で固く手を握り締めるおこまの姿が
次第に濃くなる闇に包まれていきました。
☆☆☆
おこまと巳之吉は一緒になっていたら
ふたりとも罪を犯すことはなかったかも・・