レモンタルトの夢

イラスト、写真、お話しなどを載せています。時々根尾くん♪

風雪の檻 藤沢周平

「幻の女」あらすじ


もとは腕のいい真面目な職人だった巳之吉という男は
博打で身を持ち崩したうえ
いざこざを起こして人を殺めた罪で
牢で流人船を待つ身でした。


ある日登は腹下しを起こした巳之吉を診ます。
巳之吉は無口な男でしたが
登にふと幼馴染だった少女のことを漏らします。


巳之吉の住む裏店に父親と引っ越してきた、
おこまという名の大人しい娘でした。
巳之吉が修行に出るまでの短い間でしたが、
おこまのことは巳之吉の心に深く刻まれます。


年頃になった巳之吉は夫婦になるなら
おこましかいないと考えるようになりましたが、
何年か後、裏店に戻ってみると
おこまは引っ越した後でした。



登は巳之吉におこまを探してやろうと
約束します。
もう結婚して子供の二人や三人いるかもしれない・・
それでもおこまが幸せに暮らしていることを知れば
巳之吉の気持ちも慰められるだろう・・。


登はおこまを探しはじめますが、
おこまは勤めと住まいを短期間で転々としており、
「伊勢甚」という小料理屋を最後に
行方がぷっつり途絶えます。


ところが登は相談した岡っ引きから
とんでもないことを聞きます。
おこまは登が勤める小伝馬町の牢に入っていると
言うのです。


「伊勢甚」の女将らと組んで
お客の懐から財布を盗んでいたと。
余罪はそれだけではないらしく、
おこまは一軒家を持って贅沢に暮らし、
働かない亭主を養っていたという話でした。



登は巳之吉に
おこまは「伊勢甚」という店を最後に
足取りがつかめないと嘘をつきます。


巳之吉は登に尋ねました。


「伊勢甚ではおこまのことを何と言ってました?」


「よく働く女子だったと褒めていた・・」


「そうでしょうとも、あれはそういう女子なんだ・・」


10日後、登は巳之吉の乗った流人船を見送りました。



登は女牢の牢名主おたつに頼んで
おこまを呼び出します。


「巳之吉という男を知っているか」


おこまは小さくうなずきました。


「巳之吉は人を殺めて遠島送りになった。」


おこまの顔が赤くなるのが
薄闇の中ではっきりわかりました。


「あの人は私がここにいることを
知っていたのでしょうか?」


「いや、知らずに行ったよ」


膝の上で固く手を握り締めるおこまの姿が
次第に濃くなる闇に包まれていきました。



☆☆☆


おこまと巳之吉は一緒になっていたら
ふたりとも罪を犯すことはなかったかも・・