ある雨の日の午後、
くるみちゃんは喫茶店で
古本屋さんで買ってきた本を読んでいました。

口数の少ない穏やかな物腰のマスターが
ひとりでやっているお店で
静かで落ち着けるので
くるみちゃんのお気に入りです。

「その本はおもしろいですか？」

テーブルにコーヒーを運んできてくれたマスターが
くるみちゃんの本の表紙を指さして
聞きました。

「はい、とっても・・」

「そうですか・・
その本はわたしの家内が書いたんですよ。」

「え、そうなんですか。」

くるみちゃんはマスターに奥さんがいることも
知りませんでした。

「ええ、もうずいぶん昔のことで・・
今でも読んでくださる方がいるとは
うれしいですね。
ではごゆっくり・・」

マスターはそれだけ言うと
店の奥に戻っていきました。

コーヒーを飲み終えて
お勘定をしてもらう時
くるみちゃんはマスターに奥さんのことを
聞こうかと思って、
でもやっぱりやめておきました。

「ごちそうさまでした。」

「ありがとうございました。
またどうぞ・・」

くるみちゃんがお店に外に出ると
雨はまだ降り続いていました。

落ち葉をやさしく濡らす
静かな秋の雨でした。