レモンタルトの夢

イラスト、写真、お話しなどを載せています。時々根尾くん♪

殿様の茶碗 小川未明

ある国に有名な陶器師がおりました。


ある時役人がやってきて
陶器師に殿様の使う茶碗を注文しました。
「なるべく薄く軽い上等な茶碗を作ってもらいたい」
陶器師も薄く軽い器こそ上等なものだと
信じていました。


出来上がった茶碗はこれ以上は無理というほど
薄く作られていました。


殿様はその茶碗を使うたびに
中に入れたものの熱が伝わって
手が焼けるほどの思いをしましたが
とても我慢強い方で口に出すことは
ありませんでした。


旅に出た殿様は、宿のない土地で
百姓の家に泊まることになりました。


殿様は百姓の素朴なもてなしに
心打たれました。
そして分厚い器にはいった暖かい食べ物は
殿様の体と心を癒しました。


殿様は百姓に聞きました。
「この器は誰が作ったものか」
「それは町で買ったもので
名もない職人の作った器でございます」


国に帰った殿様は
茶碗を作った陶器師を呼び出して言いました。
「どんなに上等な器を作ったつもりでも
使う人のことを思う優しさがなければいけない」


陶器師は深く頭を下げ、
それからは普通の器を作る職人になりました。