小さな手紙 〜レモンタルトの夢〜

イラスト、昔ばなし、愛犬の写真など

心中未遂(最終)

あいの村に着き、

与平は通りがかった旅人を装って

あいの実家を訪れました、


出てきてあいの母親と思しき女に


「以前この前を通ったとき

草鞋を紐が切れて往生していたところ

こちらの息子さんに草鞋を売ってもらった。

息子さんは達者でおられるか」


与平はそんな風に切り出しました。


あいから家では手のすいたとき

草鞋を作って売りに行っいると

聞いていたところから思いついた

作り話でした。


するとあいの母親は


「息子なら卒中でなくなりました」

と答えたのです。


「卒中で…」


「はい、わたしの兄が医者をしておりまして、そういう見立てでした」


あいの兄はある日突然倒れ

医者であるあいの伯父が卒中の診断を下し、役所にもそう届けられた…

そう母親は話しました。


やけに熱心に話しを聞く与平に

母親は何か感ずいたようですが

何も言いませんでした。



「家で娘が待っておりますので…」


与平はそう言ってあいの家を出ました。


しばらく歩いて振り向くと

母親とあいの幼い妹と弟か

家の前でまだ与平を見送っていました。


与平は家に帰ったら母親の言った通りにあいに話してやろうと思いました。


それであい自身が納得するか、

あい自身の罪悪感が薄れるかどうかは

わからない…


ただ与平はこうも思うのでした。


あいの罪の償いはもう終わっているのだ。

あいは心中を考えていた自分たち夫婦を救って、

生きる力を与えてくれたのだから、と。