おこう 七
おこうは気がつくと
源太郎の木賃宿に来ていました。
源太郎は何も聞かず
おこうの汚れた足を洗って
部屋に上げました。
部屋には作りかけの下駄がいくつも
積み上げてあります。
「あれから下駄を作ってるんだ」
☆☆☆
おこうと所帯を持つことを
諦めきれず
源太郎は下駄を作りはじめました。
十足作り、それを持って江戸の下駄屋をまわりました。
京屋という店の主人が置いて行っていいと言ってくれ、
十足全部預けてきたのです、
5日後、主人が自分で
源太郎の木賃宿を訪ねて来ました。
下駄は全部売れたと言い、
十足分の代金を源太郎に渡すと
「何足でも作っただけうちで全部買い取らせて欲しい。
長いこと下駄屋をしているが
こんな丁寧な作りの下駄ははじめてだ。
買った客が、何とも履き心地がいいともう一足欲しいと言ってくる。
履いてみればわかるんだ。
作った者の心がそっくり履く者に
伝わる。
これまでどんなに職人に言っても
だめだったが…」
帰りがけに送ってでると
京屋の主人は源太郎の下駄を
履いていました。
☆☆☆
「今日も出来上がったのを
納めてきたんだ。
旦那さんが長屋に小ざっぱりした家も
見つけてくれて…
明日にでも、
おこうちゃんに会いに行こうと思ってたんだよ。
どうだろう、おこうちゃん、
俺と一緒に…」
おこうはまるで夢見ごこちで
源太郎の話を聞いていました、
そして源太郎がそっと腕を伸ばすと
おこうは花のように抱き寄せられました。
終わり