遺り櫛 四
「お志津さまは
夫婦児というのをご存知でしょうか?」
「夫婦児とは…双子のことでしょう…」
当時はまだ男女の双子が生まれると
それを周囲に隠す風習が
武家や町家に残っていました。
それは特に公家侍の家柄に強く
片方をよそにやって別々に育てるということも珍しくありませんでした。
折枝は子供のようにしゃくりあげながら
叫びました。
「私とあの方は夫婦児、実の兄と妹でございました。
同じ時に生まれ
最期も妹としてそばにおりました。
私のことをあの方があなたさまにお話していれば…このようなことにはならなかったものを…」
平岩弓枝「遺り櫛」
終わり