遺り櫛 三
「結婚した当初、私は夫の優しさ、あたたかさに触れ、夫婦の情愛も感じ
幸せでした。
不正を探るなどということは
止めようとも思っていました。」
ところが
志津は祇園祭の夜、
仕事だと言って出掛けて行った夫が
見知らぬ女と逢っているところを
見てしまいます。
「これまで一人苦労をさせた。
これからは不自由な思いはさせない」
夫は女にそんな風に言っていました。
その時の女こそ
今志津の目の前にいる折枝だったのです。
「私は夫が頻繁に女の家に通っているのを知り、裏切られたと分かりました。
私は夫に同じことをしたまでのこと。
今は贅沢な暮らしをしているが
少しも幸せではない。
私は女の幸せを全て失った」
それを聞いて折枝は顔に驚きの表情を浮かべると畳に手をつきました。
続く