小さな手紙 〜レモンタルトの夢〜

イラスト、昔ばなし、愛犬の写真など

「車を待たせて」②

「車を待たせて」②


「これからディナーの約束があって、
そのあとに芝居見物・・。
公園のそばの角に車を待たせてますの。
こちらに来る時に見かけませんでした?
白いボディの・・」


男はちょっと眉根を寄せると
「あぁ、足回りの赤い車ですね・・。
もうこんなに暗くなっています。
不用心ですので
車までお送りしますよ」


「いえ、それには及びませんわ。」
娘はきっぱりと断りました。


「あなたがどうのこうのと
言うわけではないですけど・・
車から身元がわかってしまうことも
ありますものね。
もしあなたに分別がお有りなら、
私が歩きだして10分は
ここに座っていていただけますね?
では、お休みなさい・・」


娘はそう言うと男の前から
歩き去って行きました。


男はしばらくその場に座っていましたが、
立ち上がると、静かに娘の後を追い始めました。


娘は公園を出て、
通りの歩道を歩いて行きます。
角には娘が言っていた白い車が停まっていましたが
娘はその横を通り過ぎました。


それから通りの反対側にある
派手な店構えの大衆食堂に
入って行きました。


男は折よく停まっていた辻馬車の陰から
店の中を見ていましたが
しばらくすると、
帽子を取った娘が店の奥から出てきて
会計の席の赤毛の娘と
交替しました。


若い男はそこまで見届けると
踵を返して元来た歩道を戻り始めました。


男が白い車の近くまで来ると
一冊の本が落ちているのに
気がつきました。
表紙には「千夜一夜物語」と
書かれています。
公園であの娘が読んでいた本でした。


男は本を蹴とばすと
じっと考え込むようにしていましたが、
白い車のドアを開けて後部座席に滑り込むと
ゆったりとした口調で
運転手にこう告げました。


「クラブにやってくれ、アンリ」



(「車を待たせて」(O・ヘンリー)より。
大幅に要約してあります。)