小さな手紙 〜レモンタルトの夢〜

イラスト、昔ばなし、愛犬の写真など

「善女のパン」

「善女のパン」 O・ヘンリー


40歳のマーサは
ひとりで小さなパン屋を営む独身女性。


真面目で働き者のマーサでしたが
なぜか結婚には縁がありませんでした。


マーサはこのところ頻繁に店を訪れる
お客さんが気になっていました。


そのお客さんは
質素な身なりのドイツなまりのある若者で
いつも売れ残りで安くしている古いパンをふたつだけ
買っていきます。


マーサは若者の手が
いつも絵の具のようなもので汚れていることから
彼が売れない、貧しい絵描きかなにかだろうと
見当をつけていました。


マーサはいつも礼儀正しく感じのよい若者に
好意を抱いていました。


若者と少しづつ言葉を交わすようになったマーサは
いつしか若者に惹かれていき、
着る物に気を遣ったり
化粧品を揃えたりするようになりました。


新しいブラウスを着て
マーサは若者がパンを買いにやって来るのを
心待ちにしました。


(彼を元気づけてあげたい。)
マーサはそう考えましたが
どうしていいかわかりませんでした。


ある日いつものように若者は古いパンを
買いに来ました。
若者はマーサがパンを包んでいる間
店の外を眺めていました。


その時マーサはある事を閃きました。
若者が買う古いパンにナイフで切れ目を入れて
パターを塗りつけたのです。
そして何も言わず
パンの包みを若者に渡しました。


若者が帰ったあと、マーサは
「彼はパンに塗りつけられたバターに気がついて
どんな顔をするかしら・・
私のことを何て思うかしら・・」
そんな想像をしてひとり顔を赤らめました。


ところがあくる日、
若者は店の扉を乱暴に開けて店内に入ってくると
連れの男の制止も聞かず
マーサに向かってこう喚き立てました。


「あんたのせいで何もかも台無しだ!」
「あんた、おせっかいな老いぼれの猫だよ!
どうしてくれるんだ!」


そして店を出て行ってしまいました。


呆気に取られているマーサに
若者の友人だという連れの男が
話しました。


「あいつはこのところずっと
新しい市庁舎の設計図を書いてたんだ。
コンペに応募するためにね。
何日もかかってやっと描きあげて、
消し残しの鉛筆の線を
あんたの店で買ったパンで消そうして・・」


男が帰ったあと、マーサはしばらく椅子に座って
ぼんやりとしていましたが、
立ちあがって階段を上り自分の部屋に行くと
着ていたブラウスを脱いで
以前着ていたものに着替え、
化粧品のびんをゴミ箱に投げ捨てました。


おわり


***


1月28日の誕生花


ネモフィラ(花言葉 可憐)