かみなり 六
翌朝港で来助がきよと
沖のポルトガル本船への小船を待っていると、妻のおくめが姿を現しました。
「あなたのことは噂で色々聞いて案じておりました。
子供たちが一緒に暮らしてもいいと言っております。
それで迎えに参りました。」
「ばかもん!」
来助はまわりが驚くような声で一喝すると、
きよを抱いてやって来た小船に乗り込みました。
「きよがいなくなっても
おじいは一人にならなくていいんだね」
きよは来助を見上げてニコっと笑うと
目から涙がポロポロこぼれました。
来助は決意を固めました。
故国を捨ててマカオに行こうと。
「きよ、おじいも一緒に行くぞ。
本船にいる春木さま(来助の上役)にお願いして通辞(通訳)として乗せて行ってもらう。
おじいの南蛮語は子供たちの役に立つ。
マカオで一緒に暮らそう」
親船に乗ってマカオまで連れて行ってもらう交渉は難しいかと思いましたが、
職権を利用して
なんとしてでもマカオまでついていこうと
来助は若者のように張り切っていました。
「さっきのおじいの言ったのは、
かみなりって言うんだよね」
きよが安心した顔で言いました。
「婆やたちがおじいが大きな声を出すと言っていたの。
旦那さまがかみなりを落としたって」
ポルトガル本船の船べりが二人の目の前に
近づいていました。
終わり